研究テーマをどうやって決めたか~Z先生の場合~(3)

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研究テーマをどうやって決めたか~Z先生の場合~(1)
研究テーマをどうやって決めたか~Z先生の場合~(2)


からの続きです。

上記2つを振り返って、高校生に役立つようにその気づき・教訓を列挙してみます。

(1) 「日常生活での気づきから得られる身近なテーマ」ではない

高校生の課題研究では↑のようなものがよいとされています。しかし、よく考えてみてください。科学研究はもともと世界を説明しようとして行われており、結果として今のような形に細分化・専門家されています。なので、すぐに思いつく研究テーマは (1)現在も難しくて未解決 (2)いっけん不思議だが解明されている (3)そもそも科学研究として不適切
のいずれかです。

(1) の例「宇宙に果てはあるか」=まだわかりません。
(2) の例「なぜ空は青いのか」   =解明されています。高校の知識でほぼ説明可能
(3) 幽霊はいるのか = そのままでは科学研究になりません。科学的な「幽霊」の定義は?どうやって再現する?

専門的な領域に踏み込み、掘り下げていけばいくほどテーマを見つけられます。草むらの奥にテーマが眠っています。必ずしも「身近な現象」である必要はありません。


(2) 研究業界での豊富なインプット・アウトプットに基づいている

素粒子論の文脈でテーマが設定できたのは、研究室という環境で先輩から学んだり、研究会に参加したり、教科書や論文から基礎理論を学ぶなどのインプットとアウトプットがあったからです。大学学部からテーマ設定に至るまでに6年間の積み上げがあるわけです。高校生にそれを望むべくもありませんが、理数科・SSH等で課題研究を行う学校はみなさんを強力にサポートし、高校を「研究コミュ二ティ」にしようと日夜努力しています。

(3) 研究テーマの根源は、業界内の「素朴な疑問」にあった

素朴といっても、(1)の文脈の「身近な不思議」ではなく研究分野内での素朴な疑問です。「素粒子世代の謎」についても、「D-ブレーンの構成」にしても、業界全体の大テーマであり、その意味で「素朴」と言えます。今でも本当に不思議に思います。その素朴な疑問が業界全体の流れに一致するからこそ、その解決に向けた小さな一歩が意味を持ちます。

もちろん、自分で「流れ」を作り出すこともできます。高校生のみなさんの柔軟な考えかたで新しい研究が産まれます。

(4) 会話が通じるように基礎知識を学んでいた 

特に大学院のときのことですが、「D-ブレーン革命」が起こったときに、それを教えられる先生は大学にはいませんでした。そもそも、先生たちも「何これ」といって勉強し始めたのでした。仕方ないのでみんな自分で勉強しました。わからないことだらけでしたが、いざ研究を始めるときには、勉強のかいあって、他の大学の研究者や学生と議論をすることができたのです。それがあってこそ、素朴な疑問をリサーチクエスチョンに落とし込むことができるのです。

(5) 黒板で会話する

研究をしてて気づいたのですが、研究者とそれ以外の人の決定的な違いは「黒板で会話できるか」ということです。物理学者は総じて黒板で会話するのが得意です。もちろん、ホワイトボードやweb上のワークスペースでもかまいません。これは高校生でもまねできるので、ぜひやってみてください。

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