研究テーマをどうやって決めたか~Z先生の場合~(2)

研究テーマをどうやって決めたか~Z先生の場合~(1)からの続きです。

大学院以降

↑こちらに進学しました。

(1)でも書いたとおり、「ひも理論」を研究したいと考えてのことでした。

ひも理論」とは、素粒子や宇宙の起源を、原子よりとてつもなく小さい「ひも」で説明しようとする試みです。万物の理論、究極理論と呼ばれたりします。

究極理論であるなら、「ひも理論だけ勉強すれば万事足りるのではないか」と思うのですが、そうはいきません。素粒子物理共通言語としての「場の量子論」をマスターしないことには、話すらできません。修士1年の時のゼミで必死に勉強しました。難解なことで有名な理論です。今でも完全にマスターしたとは思っていません。奥が深いです。

修士論文はひも理論のある論文のレビュー(解説)でオリジナルなことはしていませんでした。指導教員の専門である「弦の場の理論(SFT)」を勉強しました。そのころにはひも理論の「大革命」がやってきたのです。「5種類あるひも理論が実は全て同じもの」だとか、「ゲージ理論(電磁気学みたいなもの)と重力理論(宇宙の理論)が同じもの」だとか、革命的な結果が海外から流れ込んできました。そこで「主役」を演じたのは、「Dブレーン」という「板」でした。
「ひもを勉強するつもりだったのに、なぜ「板」なのか」と驚いたのですが、業界はもう、この話一色になりました。そこで不満だったのは、「どのようにひもからDブレーンが作られるのか」がわからなかったことでした。概念的には、ひもが固まって板になったと考えればよいのですが、それを具体的な計算で示した論文は見当たりません。(じつは2020年現在も完璧には解明できておらず、最重要テーマです。)そこで衝撃的な論文が現れます。「弦の場の理論(SFT)を使えばひもからD-braneが作れるよ」という内容でした。著名な研究者 A. Sen と B. Zwiebach が提唱したのです。このときちょうど弦の場の理論を勉強していた私は「これだ」と思い、D-brane とは何かを理解することを研究テーマに決めたのです。それ以来、2020年現在までこのテーマを研究しています。

さて「弦の場の理論」とは何でしょうか。これは素粒子の共通言語「場の量子論」をひもに適用したものなのです。が、なぜか、素粒子の場合ほどすんなりといきません。「場の量子論」は素粒子どうしが衝突したり固まったりする様子を明快に説明できるのですが、ひもの場合には拡がりがあるため、事情がかなり複雑になります。2020年現在、考え得るひも理論のバリエーションについて、ようやく理論が出そろったところです。しかも出そろった理論はかなり複雑です。これが単に技術的な複雑さなのか、それとも根本的な問題なのかまだ明らかでなく、発展途上です。

2020年現在、ひも理論は量子情報機械学習と結びついて刺激的な進展を遂げています。将来、ひも理論の成果を応用した量子コンピューター が開発されて、スマホでも使えるようになる、かもしれません。





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