南部陽一郎先生

南部陽一郎先生が亡くなりました。平成27年7月5日。

世界的な理論物理学者で、2008年にノーベル物理学賞を受賞した南部陽一郎(なんぶ・よういちろう)氏が5日午後8時12分、急性心筋梗塞のため大阪市内の病院で死去した。94歳だった。連絡先は名誉市民称号を贈った大阪府豊中市秘書課。告別式は近親者のみで行った。

 亡くなられてからすでに1ヶ月が経とうとしていますが,そのことを思い出すたびに,なにかとてつもなく大きな存在が亡くなった喪失感を感じます。

著名な方なので,何度か研究会等でトークを聞いたりしたことがありました。
 個人的な思い出のうち,ひとつはこれ

基礎物理学 : 過去と未来(3.基礎物理学の系譜,学問の系譜-アインシュタインから湯川・朝永へ-,研究会報告)

基礎物理学研究所での講演を収録したものです。 ご自身の歩みを物理の発展とともに語られる内容で,静かに語りかけられる様子が圧巻でした。たしか,予定時刻を大幅に過ぎていたのですが,聴衆はそのトークにただただ引き込まれ,時間を過ぎたことなど忘れてしまってます。(ふつうならベルがなったり,「早く終われ」と思ったりするのですが,このときばかりはそう考える聴衆はおらず,会場全体がまさに引き込まれていました。)理論物理学の歴史そのものを観た,感じたと思える機会でした。

 もうひとつの思い出は,先生がかつて在籍された大阪市立大学に,私が大学院生として在籍していた当時,研究会でお話に来られたときのことです。量子カオスの中村勝弘先生がホストで,南部先生と若い大学院生とで食事にご一緒させていただいたことがあります。そのなかで,「若い人が集まって自由にやれば,おもしろいことができますよ」というようなことをおっしゃっていたのが印象に残っています。今,上の講演録を読み返して,これはまさに先生が若い頃,大学に寝泊まりして仲間と過ごされたころの様子を語られているのだな,ということに気付きました。

いろいろな形があるかとは思いますが,何気なく集まって,自由に過ごし,夢を語り合う時間こそが,若い頃の最大の財産だと思います。今は高校に勤めていますが,例えば,学校でそういう時間,そういう集団を意図的に作り出すにはどうすればよいのでしょうか?自由な雰囲気が大事なのはなんとなくわかりますが, より具体的にとらえるのはなかなか難しそうです。学校にとって,教育にとって,重要なテーマです。

話変わって,南部先生の業績の偉大さについてです。「自発的対称性の破れ」は理論物理にとってもはや言語と言っていいくらい基本的なことで,「U(N) がなんちゃらに破れてこの粒子がmassを持って」という会話を日常的に行なっているわけです。これをマスターしないと,素粒子/宇宙/原子核の研究の話はほとんどできないような気がします。さらに,自分の専門である「ひも理論」は,南部先生がハドロンの物理から導きだしたものです。以上の事実をまとめると,自分の研究している分野は,南部先生の業績なくしてはいな存在しなかったかもしれないのです。

また教育の話に戻りますが,こうした「天才」を生むのはどんな教育なのでしょうか?もしくは,教育は関係ないのでしょうか?SSHは確実にそれを目指してきたわけですが,単にどんなカリキュラムがあるとか,どこどこの海外研修に行っている,だけではなく,天才を育む学校の風土や環境がどんなものか,可視化,具現化することが必要かと思います。(JSTが「学校全体の運営」や「学校の盛り上がり」について評価しようとしているのも,そのことが大事だからでしょう。)「文部省系」オンリーであった中等教育を「科学技術庁系」の風土・文化と融合させたのがSSHだと理解していますが,再び,教育系の流れを重視すべき時期にあると考えています。






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